Singa Nebah

 Lokananta CD 解説文シリーズ。「Gending Soran」から「Singa Nebah」です。


8. Singa Nebah Ldr. Bima Kurda, Pelog Barang

 「Singa Nebah(怒るライオン)」は、古い時代のランチャランです。

 この曲はパジャン王国の時代、スルタン・ハディ・ウィジョヨ(Sultan Hadi Wijoyo)の治世下で生まれたとされています。彼の母はプルナン王子(Prince Purunan)の親戚にあたります。

 プルナン王子は作曲がたいへん得意で、自分が不当な扱いを受けたと感じたときには、新曲を作ることによって抗議したのでした。「Singa Nebah」は、そんな曲の一つです。この曲は、プルナン王子がとても怒っていることを表しています。

 同じように怒りを表すものとして彼が作った楽曲には、他に「Wani Rute(傷心を恐れず)」や「Banteng Loreng(凶暴な黒い牛)」が含まれます。

 プルナン王子の怒りは、ワリ(wali)の一人スナン・カリジョゴ(Sunan Kalijogo)にたしなめられました。彼はプルナン王子にこう助言しました。「怒ってはいけません。ハディ・ウィジョヨ王子は知恵と知識を持った者です。怒りを持ち続けていてはいけません。」

 スナン・カリジョゴは、その楽曲の表現を柔らげました。彼は「karang gayam」を「kembang gayam」に変更しました。そしてこう言いました。「もしあなたが称賛され尊敬されることを望むなら、今回はあなたの順番ではなかったと思うのがよいでしょう。」

 プルナン王子の死後、その遺体はクラテンにあるレゲン村に葬られました。クリオン(kliwon)と重なる金曜と火曜には、人々が祝福を受けに彼の墓を訪れます。

 「Singa Nebah」は、「Tropongbang」と同様にスレンドロで演奏されます。ナルトサブドはこれに歌を付けました。この曲は「Bima Kurda(怒り狂ったビモ)」という楽曲の中でも演奏されます。


(メモ)

  • Wani ・・・あえて、恐れずに(英 = dare)
  • Rute ・・・傷心(英 = wounded heart)
  • wali ・・・花嫁に対して法的な責任を有する近親者の男性。一般的には花嫁の父親。
  • karang gayam ・・・(不明)
  • kembang gayam ・・・(不明)
  • kliwon ・・・ウク歴で5日置きにくる日のこと。(詳細不明)
  • Bima ・・・パンドウォの次男。

 「Wani Rute」は、とりあえず「傷心を恐れず」ってことにしてみましたが、怒りを表すという意味ではあまいかなぁ?ちょっとセンチメンタルな感じに読めてしまいます。もっと生々しく「心臓が傷つくことも恐れずに」とした方が、刃物で刺されてもかまわないというぐらいの感じになって、怒りにまかせて大胆な行動に出ようとしている雰囲気があって、いいかも知れません。
 ともあれ、『怒り』を曲にして表現するなんていうのは、まさに『ロック魂』に通じます。やっぱりありました!ガムランにもロック魂!教条主義に陥ることなく、心を開いて音楽に接することで、音楽に込められたいろいろな思いまでも心に届く、そんなこともあるのではないでしょうか?...別に、自分が、その込められたメッセージを受信したとかいうことではないんですよ。...「Singa Nebah」を怒りを込めて演奏したらどうなるんでしょう?おそらくは、そういうことではなくて、普通に演奏してなお、他の楽曲にはない『行き場のない秘められた怒り』が漂うと、プルナン王子が喜んでくれそうな気がします。

(参考)
ウク暦(Wuku)
ウク暦の祭礼日と吉日
ビモ